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2005年 06月 15日
ションヤンがいい女だ。
柴咲コウの目ヂカラを持った持田香織といったルックスで、多分32、3才くらいのはずだがもう少し若く見える。意味不明に首をくねくねさせる仕草がいろっぽい。 飲み屋にいたら惚れるね。 でも、あんなしがらみいっぱいの気の強いやり手ねーさんとつき合ったら、ヤバいな。 舞台は、去年アジア杯で日本代表が大ブーイングを浴びた、重慶という街の、吉慶街という古い屋台通り。実在する屋台通りの店を改装して撮影したらしい。すごく雰囲気のいい場所だ。 ションヤンはそこで、鴨の首の揚げたのを出す店をやっている。鴨の首って食べたことがない。反日感情めちゃくちゃ強いところらしいので、おっかないがちょっと行って、鴨の首食べてみたいなと思った。 ションヤンみたいな女はいないだろうけど。 映像が深みがあってとても美しい。特に夜の屋台通りのシーンや、ションヤンの部屋のシーンの、コントラストの強い影の部分の多い光の使い方が、すごくきれいだった。ロケセットの装飾の色もいい。 日本映画では、なかなかこういう光と色は見かけないように思う。なんだか悔しい気がする。 ションヤンの店に1年間通い続けている男、卓さん。佐藤慶を八の字眉毛にしたような、前髪の薄い中年男。なぜこんな男に、と思うが、ションヤンは卓さんの視線にときめく。 卓さんは、ションヤンの街には不釣り合いな、ベンツに乗って大金の動く仕事をしている、大物と呼ばれる人物。ションヤンは苦労人だ。彼女には彼女の惚れるポイントがある。 ションヤンの生い立ち。 重慶の小さな家の生まれだ。12、3才で母が死んだ。母の死後すぐ、父は京劇の女優とデキて家を出ていった。兄は生活力がなかった。ションヤンが弟と妹の母親代わりになって、二人を育てた。大学をあきらめて10代から吉慶街で鴨の首を売る店をやってきた。24才で大学生と結婚したが、流産して離婚。流産した時に兄の子供が生まれて、乳の出ない義姉のかわりに甥におっぱいをのませた。母親代わりになって育てた弟を溺愛しているが、その弟はミュージシャンになる夢破れて、現在麻薬中毒の厚生施設にいる。実家にはややこしい権利問題で他人が住んでいて、その家を取り戻すのがションヤンの当面の目標。 ああ、苦労人。「巨人の星」の時代の日本人のようだ。「飛雄馬!」「ねーちゃん!」「左門豊作ですたい」って感じだ。 でも不思議なことに、この古くさい身の上ばなしが、ちっとも退屈じゃない。それは、映画の語り口が洗練されているからであり、ションヤンが強さのあるきれいな女だからだ。 ションヤンは目的のためなら手段を選ばない。いや逆だな、彼女なりにきっちりと手段を選ぶのだ。 アメイという娘がションヤンの店で働いている。アメイはションヤンの弟、ジュンジュンとつきあっていたがジュンジュンは麻薬の施設に入れられてしまった(多分ションヤンが入れたのだ)。ションヤンはジュンジュンが当分あそこから出て来れない、出てきたとしてもお前のような田舎娘を本当に好きになったりしない、と言い聞かせ、どうするのかというと、実家の権利問題で重要な立場にある役所の所長の息子と、アメイを結婚させるのだ。所長の息子が精神を病んでいるのを知っていながら。自分の家を取り戻すために。 アメイは金のあるいい暮らしと、都市の永住権(中国にはそういうシステムがあるらしい。田舎の人が都会に引っ越すのは簡単ではないのだ)を手に入れるが、夫の暴力に耐える暮らしを強いられる。 アメイが妊娠してつわりに苦しんでいる時、ションヤンは言い放つ。「まだ中絶する決心がつかないの?生まれてくる子供のことを考えた?」 えぐい女だ。 多分、ションヤンはアメイを半分は好きなのだが、半分はこの鈍い甘い女が大嫌いなのだ。そんな姿勢で生きていけると思うな。と思っているのだ。いやそれ以上に、息子のように溺愛している弟をとられるのが許せなかったのだ。 ションヤンは麻薬の施設から退院した弟を迎えに行く。ションヤンは弟にアメイが結婚したことを伝える。弟は「俺はアメイが好きだった」と言う。ションヤンは話をそらし、実家を取り戻したことを伝える。あそこで一緒に住もうと言う。弟は「いいよ」と言う。ションヤンは息子を取り戻した。 ションヤンの不幸は、愛された実感を知らないうちに、愛することを体感してしまったことだ。 ションヤンが、前髪の薄い中年男に惹かれるのも、当然のことだったのかもしれない。 結末まではまだ長い。書ききれないな。 この映画の監督は男なのだが、見事な女の描き方だと思う。原作者は多分女だ。そこによりどころがあったにせよ、この冷徹さと共感性を持ちつつ、映画としてきれいに仕上げるセンスはただものではない。 多分、監督はションヤンに惚れていたはずだ。演じた女優ではなく。 外側は監督が、内側は原作者が、って感じだなきっと。女優は大変だっただろう。 私は、ションヤンのズルさが好きだ。彼女の嘘は、自分の欲求への正直さゆえのものだ。でもその嘘に自分も騙されてしまう。こういう女は、嘘つきなのか、正直なのか? でも、一方で例えばションヤンが隣の串焼き屋のカミさんみたいなルックスだったら、あるいはションヤンの義姉のようなルックスだったら、彼女を見つめて映画を見ようというような気になっただろうか。 ならないね。 ルックス恐るべし。 思ったのだが、「毒入りカレー事件」の真寿美容疑者を黒木瞳が演じたら、観客は犯人に感情移入して物語を見てしまうんじゃないかな。 ところでこのフォ・ジェンチイという中国人の監督は「ブレードランナー」が好きなんだと思う。 香港のような屋台の雰囲気、雨、スモークと光、ションヤンの煙草の持ち方、それにずっとアップにしていた髪をおろすところなど。同じく「ブレードランナー」好きの私の好みにヒットしました。
by denkihanabi
| 2005-06-15 01:38
| 映画ネタ
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