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2009年 04月 13日
クリント・イーストウッドは、やっぱりガンマンだ。
イーストウッドの映画の主人公の行動原理も、やっぱりガンマンだ。 女性であっても。 アンジェリーナ・ジョリー演じるシングルマザー、クリスティン・コリンズは息子のウォルターにこう教えている。「自分からは手を出すな。でも最後にはケリをつけろ」 その息子が失踪する。5ヶ月後警察が発見して連れて帰ってきた少年は、全くの別人だった。クリスティンはこの子は私の子どもじゃないと訴えるが、ロス市警は捜査ミスを認めず、この子は間違いなくあなたの子どもだ、それを認めないのはあなたが異常なのだと母親を追いつめていく。 クリスティンは、警察の理不尽な権力の暴力に、息子に教えた通りの行動原理で戦いを挑む。 [この後の文章は、激しくネタバレです。ぜひ映画を見てから読んで下さい。] クリスティンは三つの強さを持っている。 息子を愛する自分を信じる強さ。 自らのルールで自分を律する強さ。 そして、どんな苦しい状況でも生きることを楽しむ強さだ。 信念、自律、ポジティビティ。 警察に強制入院させられた精神病院で、医者はクリスティンに、ここから出たければ「あの子どもが息子ではないと言ったのは私の間違いでした」という文書にサインしろと迫る。だが、それは彼女には受け入れられない条件だ。彼女は拒絶する。 とりあえずサインして、ここを出てからなんとかしよう、っていう考え方は彼女にはない。 タフで不器用な女なのだ。 私は後半の裁判シーン以降でのクリスティンの表情に違和感を感じていた。 彼女に権力の暴力を行使したロス市警の警部に裁判で勝った時、クリスティンは微妙な笑みを浮かべる。そして、息子を誘拐し虐待の末殺したかもしれない連続殺人犯が絞首刑に処された時、彼女はより明らかな笑みを浮かべるのだ。 息子を、残虐な殺され方をした母親が、あんな余裕のある笑みを浮かべることがあるだろうか?母親は息子の苦しみを想像で体験して、恐怖と怒りで自分もボロボロになってしまうんじゃないだろうか? だが、クリスティンはばっちりメイクでおしゃれな帽子をかぶって、笑うのだ。 それは、彼女が「ウォルターは生きている」と信じているからだ。 はっきりとした証拠を見つけないかぎり、彼女にとって息子は生きている。 息子がどこかで生きてさえいれば、警部も殺人犯も、彼女にとっては愚かな脇役にすぎない。 彼女は信念に従い、自律的なやりかたで、脇役を葬る。 そして、ローラースケートを履いて電話局の交換手の間を走り回る仕事をこなし、ポジティブに日々を過ごしながら、「生きているはず」の息子を捜し続ける。 アンジェリーナ・ジョリーにとっても、後半のクリスティンを演じるのは難しかったのではないかと思う。息子を残虐に殺したかもしれない(いやほぼ間違いなく殺したと推測される)犯人の前で笑ってみせるこの女を、どう演じればいいと言うのか? この女の強さは、理解しがたい。しかもこの映画は、クリスティンの迷いや葛藤を後半まったく見せないのだ。 観客も女優も、誰もが百戦錬磨の老ガンマンのようなセルフコントロールを身につけているわけではない。 連続殺人犯が絞首刑になるシーンで、そう思った。あの場面は、死刑場に入ってくる犯人の主観ではじまる。クリスティンの視点で進んでいる映画のはずなのに、いきなり犯人の主観だ。観客はあそこで突然クリスティンではなく犯人に寄り添うことになる。でも、結局この映画は誰にも感情移入させない。主人公にも。少年にも。 絞首刑のシーンは「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を思い出させる。冷たい視線が似ている。でも、似ているけれど、違う。死ぬのは、誰にとっても脇役な男だ。そんな風にクリスティンは笑う。 クリスティンは物語が終わっても息子を捜し続ける。 信念は、変わらないのだ。 「希望が見えました」と彼女は言う。 他人から見ると、それは底なしに真っ暗で不毛な希望に見える。彼女は希望で自分の目を塞いでいるように見える。 だが信念を持つものには、光が見えている。 それは、幸せかどうかという観点を越えた行動だ。 信じるものの孤独。 強く前向きに生きることの、圧倒的な美しさと寒々しさを感じさせて、映画は終わる。 伝説の老ガンマンにしか撮れない映画かもしれない。
by denkihanabi
| 2009-04-13 12:20
| 映画ネタ
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