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2008年 08月 19日
予告篇が、キレ過ぎていた。
「ザ・ジョーカー」ってタイトルにすべきだ。 あの、予告篇は、惚れた。 「ダークナイト」」は「暗い夜」だと思った。 違った。「闇の騎士」だったんだ。主人公はバットマン。 でも、俺が見たかったのは、凶悪残虐異常な悪意と殺意と変態性に満ちた猟奇的犯罪者「ジョーカー」だ。 「ダークナイト」はいい映画だが、予告篇には負ける。 「口が裂けるほど笑わせてやるよ」 っていう、キメ台詞は、映画にはない。予告篇だけだ。 だから傑作は、予告篇の方である。 この映画の主人公は、バットマンじゃない。 摩天楼は暗い地下室を積み重ねてできている。 そういう映画だ。 大衆映画的遠慮がもったいない。もったいないぜホントに。 凶悪な予告篇を見たい人は、こちら。あまりにも気持ちよく邪悪でぞくぞくする。 クリストファー・ノーランはとても手際のいい監督だ。ストーリーテリングが巧みで、アクションシーンもキレがいい。 出世作の「メメント」は数分前の記憶を失ってしまう男が主人公で、物語が時間軸を逆行するというアイディアが強烈な映画だったが、実はとても手堅く演出された正統派のサスペンスだった。 「プレステージ」は見ていないのだが、「メメント」も「インソムニア」も「バットマン ビギンズ」も、そしてこの「ダークナイト」も、どこか精神を病んだ人間が主人公か重要な登場人物になっている。人間の心のダークサイドが生み出すサスペンスを好んで描く監督で、ほとんどの作品で脚本も書いている。 にもかかわらず、この人の映画はとても真っ当なのだ。キワものの匂いがしない。バットマンとジョーカーなんていう、思いっきりカリチュア化されたキャラクターが出てきても、真面目な印象の映画になる。 登場人物がねじくれていても、ティム・バートンやデヴィッド・リンチのような奇妙にねじくれた映画にはならない。仕立てがいい映画になる。 それが、この監督の才能で、不思議なところで、私にはいつも少し不満が残るところだ。 [このあとネタバレがあります。見てから読んで下さい] 「ダークナイト」でも、相当な人数が死ぬが、血は一滴も流れなかったと思う。犬に咬まれたバットマンの傷が赤かったくらいだ。冒頭の銀行強盗のシーンで撃たれたマフィアは血を流していただろうか?倒れた男の黒い影が強調されているような表現だったように思う。ツーフェイスの焼けただれた顔はグロテスクだが、血は見えない。バットマンに強化ガラスに思いっきり顔面を叩き付けられても、ジョーカーの額は割れない。あれで怪我しないんなら、車にエアバッグはいらないよなと思うのだが。 ヒーローものの超大作がR指定になってしまっては興行的にまずいので、そういうことになっているのだろう。 もちろんそんなルールは欺瞞だ。 ただ作り手としても、これは困った制約なんじゃないだろうか。 「ダークナイト」はヒーローものではあるが、明らかに悪の魅力を描く映画だ。ジョーカーには本当はもっと、ハンニバル・レクターのように猟奇的であってほしいのだ。もっと、タランティーノの映画のようなサディズムがあってもいい。 でもそういう面を強調すると、R-15になってしまう。 だから、そこには走りすぎないように、でもジョーカーの異常性は魅惑的に見せていく。そして悪の魅力で観客を惹き付けながら、モラルを踏み外さない。 この難しいバランスの映画を、クリストファー・ノーランは見事な手際で演出している。 象徴的なのが、ジョーカーがマフィアの口をナイフで裂くシーンだ。その瞬間にカメラが乱暴に振られて、血が噴き出すシーンは映らない。でも、そこまでのテンションと効果音、ジョーカー役のヒース・レジャーの狂気の演技で、観客はその痛々しい瞬間を見たような印象を受ける。 私はこのシーンで「天井桟敷の人々」という大昔の映画のキスシーンを思い出した。主人公たちが寝室でキスをしようとする。2人の顔が近付いていったとき、カメラはすっとパンして寝室の窓から見える月を映す。美しくも奥ゆかしいラブシーンだ。 「ダークナイト」のバイオレンスシーンには、ある意味とても映画的な話法が使われている。クリストファー・ノーランは、制約を表現に生かしている。巧みである。 映画は暴走する悪、ジョーカーにバットマンのモラルが、ぎりぎりでブレーキをかけるという物語になっている。バットマンは実は軍需産業で金儲けをしているので、本当はあまり正義とはいえないのだが(たぶん、ブルース・ウェインの会社の製品が殺した人間の数は、ジョーカーの生涯殺人人数の比ではないんじゃないか)、一応映画の中で描かれている範囲では、正義が悪をぎりぎりおさえこむ。 バランスをきちんと守って、ダークサイドを描く。クリストファー・ノーランは才能がある。でも、私はいつも、少し不満なんだ。 破綻が計算の中に取り込まれているような窮屈さを感じるからだろうと思う。 モラリストのバットマンはジョーカーを殺せなかったので、ジョーカーは生き残った。 かくして続篇に続くわけだが、ジョーカーを怪演したヒース・レジャーはこの映画のあと、急逝してしまった。大変残念だ。続篇は誰か別の俳優がジョーカーを演じるのだろうが、キャスティングは難しいだろうな。 ジョーカーが病院を爆破するとき、最初うまく爆発しなくて、作ったおもちゃがうまく動かなかったときの子供みたいに、なんだよって顔でボタンを押し直すところが、好きだ。 いつも笑っているみたいだけど、やつは本当は笑っていない。 口が裂けてるだけだからな。 ジョーカーが笑えるのは、他人の中に自分以上の絶望を見たときだけ。 笑える世界にしてやるぜ。 ってやつは街にやってきたんだ。
by denkihanabi
| 2008-08-19 03:15
| 映画ネタ
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