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2007年 06月 17日
幻想怪奇映画というジャンルがある。といっても私がそう呼んでいるだけなのだが。どういう映画かというと、恐ろしげで妖しげな空気に満ち満ちているが、ほとんど何も起きない、という映画だ。
「シャイニング」や「世にも怪奇な物語」などが代表作だ。鈴木清順の「ツィゴイネルワイゼン」なんかもその仲間だ。最近では「アザーズ」がそういう雰囲気でよかった。直接的なショックシーンが少ないので、ホラーとかスプラッターと違って、文学的な印象を残す。 ニコラス・ローグの「赤い影」も、そのジャンルの代表作の一本だ。恐そうだけど、恐くない。ミステリアスな雰囲気を味わう映画。 とはいえ、1973年の映画だ。日本で公開されたのはその10年後なので、私が見たのは80年代だった。そのときは、これ、すごく好きで何度か見たのだが、昨日久しぶりに見たら、それほど面白くなかった。 映画は変わらないから、私が変わったのだろう。 ニコラス・ローグはカメラマン出身で、映像派ということになっているが、彼の映画の特徴は撮影よりも編集にある。思わせぶりな映像を、時制を混乱させるようにちりばめるのが得意技だ。 「赤い影」もそういうニコラス・ローグの面目躍如というべき、妖しげなイメージのモンタージュで作られている。ヴェネチアの古く陰鬱な建造物、水、水死した娘の着ていた赤いコート、笑う老姉妹、盲目の霊能力者、フィルムに広がる赤い液体、ベッドで愛し合う夫婦の肉体、割れるガラス、テーブルを倒して卒倒する妻、謎めいた司教、モザイク、迷路のような路地、運河を行く喪服の女、赤い影、しかも主人公はドナルド・サザーランド。ドナルド・サザーランドの顔は出てくるだけで恐い。 こう書いただけで、なんかすごくいい映画のようだ。 実際、クライマックスで一気に迸るようにこれらのイメージがモンタージュされるシーンは、カッコいい。私はこれが好きなのだ。 でも、そこまではとにかくスローテンポで、本当にムードだけなんですよ。1973年や80年代にはこれでも十分恐かったのかもしれないが、21世紀には刺激がなさすぎる。 ニコラス・ローグはデヴィッド・ボウィーの「地球に落ちてきた男」で有名になったように、今でいえばMTV的な監督なんだと思う。もちろんMTV自体がなかった時代の話だ。ヴィジュアルとモンタージュで感覚を刺激する映像の先駆者だ。いや、映画ってもともとそういうものなんだけれど。 でも80年代以降MTV的映像はものすごく進化した。映画の内容は、昔のものの方が面白かったりすることが多いのだが、撮影と編集の技術に関してはデジタル化も含めて、70年代とは比べ物にならない。 妖しげな映像のモンタージュというだけなら、「赤い影」のクライマックスより、マーク・ロマネックが監督したナイン・インチ・ネイルズのビデオの方が、刺激的なのだ。 『このあとネタバレがあります。これから見ようと思っている人は、見てから読んでください』 とはいえ、ニコラス・ローグの映画がすっかり時代遅れというわけではない。 おととし私は初めて「美しき冒険旅行/WALKABOUT」という1971年のローグの映画を見たが、あれは今見ても本当に美しくて残酷だった。 「美しき冒険旅行」は究極の片想い映画だ。その想いの痛さは時代を超えている。「赤い影」は、娘をなくした親たちの映画だ。そのつらさも時代を超えている。私にも娘がいるので、正直言ってこれに限らず娘が死ぬ映画は、苦手だ。そういう意味では、どちらも時代を超えて心を打つ映画になってもよかったのだが、たぶん「赤い影」はテーマとなる心情より、ミステリアスなムードを生み出すための映像に、重心が行き過ぎているのかもしれない。 この映画の主人公の設定はとても面白い。ドナルド・サザーランド演ずるジョン・バクスターは、“自分に予知能力があると気が付いていない予知能力者”なのだ。自分に気が付かない。だから自分が見たことの意味が分からない。それがサスペンスを生む。魅力的な設定だ。私は、初めて見たときは、この設定が分からなかった。一応、劇中にちゃんと説明があるのだが。 しかし、この魅力的な設定が、娘をなくした夫婦の哀しみという心情を分かりにくくさせて、映画をテクニカルな冷たいものにしてしまっているのかもしれないと、思った。 とはいえ、それは今回見た感想で、20年前に見たときは、ニコラス・ローグのテクニカルな冷たさに惚れ込んだのだから、それがこの映画の悪いところだとは言えない。 だいたい、私は今でもそういう映画が好きなんだ。「恋に落ちる確率」とかね。 ところで原題の「Don’t Look Now」ってどういう意味なんだろう。「今は見るな」なのか「今を見るな」なのか。映画の内容は、見ているのは今じゃない、っていうものなのだが。主人公は過去の娘の死にとらわれながら、未来の自分の死のビジョンを見てしまうのだから。
by denkihanabi
| 2007-06-17 18:59
| 映画ネタ
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