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2006年 09月 29日
ウディ・アレンの映画を見るのは、他人の恋愛の覗き見をするようなものだ。
大富豪の家のスキャンダル。登場人物は二組のカップル。一組は、セレブな兄と、女優の卵の美しく貧しい出身の女。もう一組は、セレブな妹と、元プロテニスプレーヤーのイケメンの貧しい出身の男。 もちろん、イケメンとセクシーはデキてしまう。 「女性自身」とかに載っていそうな話だ。 こんな、オフィスのゴミ箱に捨てられてしまいそうなハナシが、面白い映画になる。それも、これまで何億回もゴミ箱行きになったようなハナシが。 溝口健二の映画もそうだが、ウディ・アレンの映画も、物語の骨格は、よく言えばギリシャ時代から変わらない、悪く言えば昼メロやワイドショーや女性週刊誌と変わらない。 それが、面白い映画になってしまうのは、語り口の上手さだ。 ウディは文字通り語りが上手い。溝口は映像的語りが上手い。共通しているのは、葛藤や感情を、説明しないという点だ。 彼らの映画は、決定的シーンを見せながら、心の内は、観客にゆだねる。 ディテールは厳しく、でも、肝心のところは見せるだけだ。 「面白い映画とつまらない映画」は、ここが違うんだな。 スカーレット・ヨハンソン演じるノラが酔っぱらって主人公を誘惑するシーンがやばい。 あんなきれいで酔うとエロ&ラブになってしまう女に、「例えば、わたしとあなたがセックスするとか」なんて言われたら、落ちない男の方がおかしい。 クリスはよくがまんした。でもクリスががまんしたのは、妻への愛のためではない。裕福な家族の一員である自分の地位を守るためだ。 このシーンは、パブで会話をする男女の切り返しだ。映像的にはなんの工夫もないので、俳優の演技が命だ。スカーレット・ヨハンソンは、あんなリアルじゃない顔なのに、すごくリアルだった。 ノラは痛い。 若くてきれいでセクシーでモテて今の彼氏は金持ちなのに不幸な女。そんなの本当にいるんだろうか?意外といるのかもしれない。 アメリカの田舎生まれで女優志望のモデル。でも芽が出ない。オーディションの繰り返し。うまくいかない。私は運がない、って思っている。 金持ちの彼氏トムの母親は彼女をよく思っていない。母親はノラに厳しいことを言う。 「才能がないなら他の生き方を探すべきだわ」 正論だが、受け入れられない言葉というものがある。 若くてきれいでセクシーでモテるのに、なんでハッピーに生きられないのか?あるいは、お金があって大きい家があっていい人たちに囲まれているのに、なんでハッピーになれないのか? 不思議だね。 それは自分はこうありたいって思うイメージが、自分自身にフィットしていないからなんだろうが。 でも、歳とってて醜くて地味でモテなくて貧乏で家がなくて借金取りに囲まれてるよりは、たとえ苦しみがあってもマシだろうと思う。 だからクリスは、マシな方を選ぶのだ。 ネットに当たったボールがどちらに落ちるか。 それを運と言い切れるのは、ラケットを全力で振り抜いたやつだけだ。 それにしても、本当によく書けているシナリオだ。これだけ書けていれば言葉を話す人間を撮っているだけで映画になる。ウディ・アレンの劇作家としての力が炸裂している。特に新しいことは何もやっていないのに。 ウディ本人が出ていたらきっとコメディになったんだろうな。 実はこれ大傑作だと思う。 いろいろな要素がつまっていて、うまく整理して書けないのだが。 愛とか欲望とかお金のために生きることとか富める者と貧しい者とか運とか嘘とか責任回避とかいろんなことが絡み合っている。 お金がない生活は悲惨だ。でもお金のために生きるのはつらい。最初からお金持ちの人間にはそれが分からない。豊かな暮らしは暖かいが退屈だ。退屈と幸せはちょっと似ていることがあるが、違う。 欲望を止めることは難しい。欲望のままに生きようとすると、他の何かを失う。欲望をおさえてあきらめたら、やはり何かを失うだろう。 欲望は刹那のものだし、恋は長続きしないし、愛は変化する。 それにしても、始めは楽しく幸せだったものが、時間とともに苦しくつらいものに変化してしまうのはなぜなんだろう? 私の知り合いの50代の人たちの少なくとも3人が「生きるっていうのはつらいものだ」という言葉を口にした。50歳になると多くの人がそう感じるんだろうか? この映画の主人公のクリスは「ソフォクレスは言った、一番いいのは生まれてこないことだ」と哲学者の言葉を引用した。それはどうだろう。生まれてこなければつらい思いもないだろうが、歓びもない。 そんないろんなぐじゃぐじゃしたことが、人生を転がしていって、結局は運が次の展開を決定する。シニカルな見方だが、間違いではないかもしれない。 努力は大切だが、人生は努力だけでは決まらない。 いずれにしてもスカーレット・ヨハンソンとセックスをするチャンスがあったらやってしまうだろう。でもどんな美しい女も歳をとる。 ところで、クリスは運のいい男だが、運は彼を幸せにしたのだろうか? こんな風に、いろんなことが頭に浮かんで、ぜんぜんまとまらない。 ウディ・アレンの演出は簡潔でテンポがいい。退屈になりそうな上流階級の人間関係をさっさと描き進めていく。警察が出てくるシーンのコンパクトさは笑えるほどだ。 これがウディ節である。 名人芸だ。 ウディ・アレンは、日本語がわかったら、絶対、落語をやってただろう。 そういえば、大昔パルコの広告でウディが「おいしい生活」って言ってたときのかっこうは、落語家の弟子みたいだった。
by denkihanabi
| 2006-09-29 01:20
| 映画ネタ
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