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2004年 11月 23日
この映画には熱がある。
映画の嘘の密度と強度が発する熱だ。 その熱に圧倒される。 ちなみに、今回の文章は長いですよ。 オ・デスはある日、何者かに拉致され15年間監禁される。15年目に解放されたデスは自分の人生を奪った犯人に復讐しようとする。 だが実は、デスを監禁したこと自体が、犯人ウジンの壮大な復讐だった。復讐の主役は、主人公ではなかったのだ。この壮大な復讐が、この映画を貫く強力な「映画の嘘」で、観客はこの嘘にしてやられる。 この映画で描かれる事件の真相を、犯人の側から整理してみよう。 ウジンは金持ちの御曹子で、高校生の時に、姉と近親相姦の関係にあった。しかし、近親相姦の現場を誰かに見られて、噂を広められてしまう。姉はその噂のせいで想像妊娠をしてしまう。姉は(弟の未来を破滅させることを怖れて)自殺する。 ウジンは噂の元になった目撃者が、姉の隣のクラスの男デスなのをつきとめる。しかし、デスは転校してしまっていて、自分が友人に話したことが、ウジンの最愛の姉の命を奪ったことを知らない。 その後ウジンは親の後を継いだのか、あるいは事業で大成功を収めたのか、経済的な実力者に成長した。ウジンはデスを監視し続けていた。そして、デスが結婚し、生まれた娘が5才になった日、ウジンはデスを拉致する。 ウジンはデスを、監禁屋の部屋に15年間閉じ込める。そしてその間に、デスの妻を殺し、その罪をデス自身にかぶせる。さらに残された娘の影の里親となり、娘ミドを育てる。 監禁中にウジンはデスにいくつかの催眠暗示をかける。そして、ミドにも同様に暗示をかけておく。15年後、解放されたデスは大人になったミドに出会う。が、2人はお互いが親子だとは気付かず、暗示の力で恋に落ちる。 デスは犯人に復讐を誓う。ウジンは簡単にデスの前に姿を現す。しかし、デスは真相を知るまでウジンを殺すことが出来ない。デスとミドは何度も窮地に陥る中で強く結ばれ、そうとは知らずに近親相姦をしてしまう。 ウジンはデスに少しづつヒントを与え、15年前の出来事を思い出させる。そして、デスがついに真相を知ったと思い、ウジンを殺しに来たとき、ウジンはデスが愛し寝た女がデスの実の娘だと告げる。ミドにその事実を知られたくないデスはウジンの足元に跪く。 これで、ウジンの壮大な復讐は完成した。ウジンは満足して、自分の頭を撃ち抜く。 この複雑で濃い物語を、何も知らないデスの側から描くのがこの映画だ。こんなに手の込んだ復讐劇は、そう見かけない。この映画を絶賛したタランテイーノの「キル・ビルvol.2」も相当手が込んだものではあったが。 タランティーノとこの映画の監督パク・チャヌクの共通点は、粘液質のサディズムだな。 この映画の場合、それはミドの設定だ。 ミドがどういう風に育てられ、どんな暗示を受けたのか、映画では曖昧なままだ。ミドは自分の両親の事を忘れている。両親のことだけでなく、影ながら彼女を育ててくれた金持ちがいることにも気が付いていないようだ。一方でウジンはミドに屈折した愛情を持っているように見える。いずれにしても、ミドの設定については、かなり強引な嘘がある。 物語にミドが登場したとき、観客はこの若い女がデスの娘なんじゃないかと気付く。私もそう思った。そこでバレてしまっては、面白くない。 そこで、映画はあの手この手で観客の目をそこから離そうとする。 例えば、暴力シーン。生理的に不快感のある痛そうな暴力シーンが何度か出てくる。歯を抜くというような。このような暴力シーンは観客の脳を麻痺させる効果がある。 また、殺された妻との過去の生活については、不思議なほど回想されない。デスは娘は愛していたが、妻には冷たい夫だったのだろうか。そのようなことにも言及されない。デスは監禁されたことに対して復讐しようとしているのであり、妻を殺されたことに復讐しようとはしていない。これはとても不自然なことだ。デスと娘の関係に目を向けさせないためにそうしたのだろう。一方で、監禁の苦しさは映画の序盤で強烈に刷り込まれる。 だが一番の大技は、デスとミドのセックス・シーンだ。あそこは仕掛けを知っていれば、宿命的な究極のラブシーンということになる。だが、私はこの段階でこの映画が近親相姦をめぐる復讐ものだとは気付いていなかった。 観客の頭には近親相姦に対するタブーがある。子供殺しと近親相姦は、人間にとって二大禁忌であり、映画の世界でも大抵の場合そのタブーは生きている。だから、この2人がセックスしてしまったからには、この女は不自然なところもあるが、娘ではないのだろうと、私は思ってしまった。敵のスパイとか、そういう役回りかと。 どんなによく書かれたシナリオにも、必ず穴はある。その穴を魅力に変えられた作品は、強い。 この映画の物語には、神話的な腕力がある。おとぎ話や神話には、強引な話が多い。偶然や運命やご都合主義に彩られている。だが、強い感情の流れをつかんでいれば、物語の穴は弱点にはならない。 現実的なつじつまを合わせることばかりを考えても、魅力的な物語は紡げないのだ。 特にオ・デスを演じたチェ・ミンシクの顔がすごい。この男のアップがこの映画のトーンを決定している。 フィクションを肉体化するのは俳優だ。いかに脚本がよく、映像がスタイリッシュでも、主役がダメなら映画はダメだ。チェ・ミンシクは顔、表情、声、体、すべてがデスであり「オールド・ボーイ」という映画そのものだった。完璧だ。 ウジン役のユ・ジテは、あらゆる点でデスと対称的な男を演じている。ルックスも、韓国語は分からないが、おそらく喋り方もだ。ミドは無垢な少女の雰囲気を持っていなくてはならない。逆にそれを強調し過ぎてもいけない。難しいバランスの役だが、カン・ヘジョンは普通の女の子っぽい雰囲気でその役をこなしている。 この3人のキャステイング、メイクなども含めた役作りは、とてもうまくいっていると思う。 美術、撮影、音楽も完成度が高く、密度が濃い。 特に監禁部屋の壁紙のデザイン。独特の閉塞感がある。同様に何度か出てくる箱のデザインは、どこかオリエンタルで妖しげだ。 一方で、ウジンのペントハウスの動くワードローブ。あれをあんな凝ったものにする必要があるのだろうかと思ってしまうほど手間のかかった代物で、素晴らしい。 ディテールに対する、スタッフの並々ならぬ熱意を感じる。デビッド・フィンチャーの映画に匹敵する密度だ。すごい力だ。 また、すごく緊迫した暑苦しい内容なのに、ところどころユーモアがちりばめられているのにも感心した。 デスが構えた金槌から相手の男の頭まで、赤い点線が入るところは、よくあの流れの中で唐突にあんなギャグを入れようなんて思いついたものだ。あれは、結構すごいセンスかも。 最初に私は、この映画には熱があると書いた。 なによりも、この物語を完璧に描き切ろうとする、制作者達の熱に私は圧倒される。 なぜ、こんな嘘をこれほどの手間と金をかけて語ろうとするのか。 それはこの物語に描かれた感情に対する、強い思いがあるからだろう。 物語は「嘘」だが、感情は「真実」なのだ。
by denkihanabi
| 2004-11-23 03:09
| 映画ネタ
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